人気記事
PR

リハビリテーション分野初の『医療福祉教育・管理分野』-桃李もの言わざれども下自ら蹊を成す(桃李不言下自成蹊)-

KOB
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

リハビリテーション分野初の『医療福祉教育・管理分野』-桃李もの言わざれども
下自ら蹊を成す-

リハタマサポートメンバーである、

国際医療福祉大学成田保健医療学部理学療法学科
堀本ゆかり教授

リハビリテーション分野初の『医療福祉教育・管理分野』の大学院を受け持つにあたり,

その想いについて記事を執筆していただきました。

ぜひご一読ください。

はじめに

国際医療福祉大学大学院に医療福祉教育・管理分野が誕生したのは今から9年前です。これまでに112名の修士課程と7名の博士課程の方が学位を手にされています。この新たな取り組みは、私の師でもある丸山仁司教授が陣頭指揮をとられ、教育学、教育工学の有識者を交え、当時では新しいe-ラーニングシステムを用いた授業が計画されました。当時、国内には医療福祉専門職のための教育や管理を学び・知見を深める大学院は存在しませんでしたし、職場の課題解決などを研究テーマとした1年間の課題研究論文コースは画期的な発案であったと思います。また、教育学、マネジメント、心理学などの講義は、その領域の有識者が講義を担当しました。2020 年 4 月に改正された理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則では、臨床実習指導者や教員の要件が付記されていますが、いち早くその必要性を見出されていたことは特筆すべきだと思います。

成人学習(アンドラゴジー理論)

私たちの領域では、「教員―学生」「学生―臨床実習指導者」「専門職―患者・利用者・家族」「専門職―専門職」「ベテランー若手」「上司―部下」など様々な関係性が見られます。大学院は大人の集団が集う学びの場です。この成人学習の特徴を捉えたものは、アンドラゴジー理論と呼ばれています。アンドラゴジーは、「成人」(andos)と「指導する」(agogos)を組み合わせた合成語で、「成人の学習を援助する技術と科学」として定義されています。大人の学習には「自己概念」「学習の経験」「学習へのレディネス」「学習への指向性」「学習への動機付け」の5つの特徴があると言われています。大人は、自己主導性があり、これまでの経験などをリソースとして、近未来にある具体的な目的のために学ぶとされており、ここで機能するのが、自ら学ぶ力である自己調整学習方略です。学習者自身が学習のプロセスを能動的に参加することが期待され、教員や他者と話し合いながら学習の方向性を決め、進めていきます。大学院での学びは、まさにこのように進められていくのです。このような成人教育学における学習者と教育者の相互の関係では、「対等性」「共感性」「協同性」「相互性」「啓発性」が重要とされています。

多様性を重要視する時代の変遷に伴う問題点

国家資格を得たのちに、それぞれの専門職としての学びは主に自領域の知識や技術の向上に充てられてきました。多様性を重要視する時代の変遷に伴い、様々な状況と求めに応じる力が必要になってきたと言えるでしょう。“積極性がない”“情意領域の問題がある”学生や新人は困った存在として報告されるものの、一方で、学力で測ることのできない非認知能力の評価やトレーニングはほとんどされないまま今日に至っています。本来であれば、「自ら学ぶ力」や「非認知能力」は高等教育までの間に涵養されていくはずですが、高等教育を修了してもなお求められているということは憂慮すべき側面があるということでしょうか。

成人学習及び成人教育の目標

文部科学省の勧告(2015年)によると、成人学習及び成人教育の目標は、(a)批判的に考え、自律性及び責任感を持って行動するための個人の能力を開発すること、(b)経済及び労働の世界で起きている進展に対処し、及び適合する能力を強化すること、(c)全ての個人が持続可能な開発過程において学習し、及びこの過程に十分に参画する機会を有する学習する社会を創出すること並びに人々と地域社会との間の連帯を高めることに貢献すること、(d)平和的な共存及び人権を促進すること、(e)青少年及び高齢者の強靱性を育成すること並びに(f)環境保護への意識を高めることであると記載されています。これは、個人の能力の向上は個人の満足にとどまらず、社会へ発信する力を醸成していく必要性も求められているということになるのではないでしょうか。

価値観の多様化に伴う、『学びの共同体の』必要性

一方で、「個人化」によるライフコースの多様化とそれに追従する価値観の多様化が加速しています。他者との関係構築や維持の過程で、無理やり本来の自分の考えを抑えて他者に同調したり、無理やり他者の承認を得ようとする思考が強まっている人も見受けられるようになりました。しかも、どうしたら他者に承認されるのかわからないために、得も言われぬ不安に陥り、コミュニケーションに苦手意識を持つ人びとが増えてきているように感じます。「心理的安定性」という概念の広がりも安定した精神状態を求める人の多さ所以かもしれません。だからこそ、大学院における「学びの共同体」は必要だと思います。少なくとも教員と大学院生たちの語りの中で共有されていく思考のプロセスや判断は学習者の心理的ゆらぎを軽減する力があるのではないでしょうか。情報化が加速し、遠隔地の院生同士も議論ができる環境になってきました。安心して疑義を口にすることができる場は貴重です。また、そういう場を作り出すことのできる人々の繋がりも貴重であると思います。

大学院における『学びの共同体』

大学院で学位論文を作成するのはそう簡単ではありません。自分が何をやりたいのかわからなくなってきた、学位を取って何をしたいのかわからなくなってきた、そういう心境に陥る大学院生は一定数存在します。そんな思いを素直に口に出したとしても、共に解決に向けて力を尽くすことができる学友や教員が存在するのが大学院だと思います。大人の学びの集団ですから上の下もありません。休日や仕事終わりに時間を惜しんで議論を重ねる彼らの様子を見るにつれ、この議論の先に多くの若い人財が育っていくのだと想像すると楽しみでなりません。

教育・管理に関する研究

そして、学術的な側面でいえば教育や管理に関する研究は、量的変数に加え質的な変数も多く存在します。インタビューやアンケートは、対象者にどのように問いかけるかによって得られるデータの特性が大きく変化します。自分が聞きたいことを聞くのがアンケートであり、その結果の示し方はヒストグラムや円グラフだから簡単と考えている方も多いと思いますが、作り始めるとその難解さに戸惑う院生も多いのです。インタビューやアンケートでは、その問いの背景や根拠を入念に調べることや回答の偏りを極力小さくするため、どのように問うか時間をかけて吟味することが必要です。質的研究はその準備にかなりの時間を費やします。

統計処理についても、基本統計量をよく検討し、2変量、多変量、因果分析へと進めていきます。ある程度の信頼性や妥当性を担保するためには、300~400データ以上のサンプル数が必要となります。そのため、インタビューやアンケートの実施前後で教育学や専門職の有識者が集い、研究会議を重ねてブラッシュアップしていくのです。ひとりでは難しいことも仲間の力が得られれば、価値ある成果を生み出すことができます。

教育・管理研究を通して感じたこと

12年前の兎年、私は理学療法士のコンピテンシー研究に取り組んでいました。この領域では、ほとんど用いられることのなかったコンピテンシーという言葉を使うたびに、「気持ちはわかるけど意味があるの?」「ビジネスや一般大学生の内容を研究テーマにするのはナンセンスだと思う」など様々なご意見を頂戴しました。よく読む雑誌は「PRESIDENT」でしたし、企業の男性ばかりのシンポジウムで発表するなど、相当な変わり者として見られていたと思います。時間的な余裕がなかった私にとって、大学院の学びから得た興味の広がりはかけがえのない贅沢なひと時でした。企業中心のシンポジウムで臨床の事例として発表をさせていただいた時に、ある大企業の方から声をかけられました。「大変興味深い丁寧な報告でした。ただ、こんな頼りないデータの上に我々の健康が委ねられているのかと思うと残念な思いがします。」私が発表したものは、統計学の大家である芳賀敏郎先生にご教授いただき、1変数の吟味から相当な時間をかけて積み上げたものでしたから、このコメントは衝撃でした。一方で、甚だ閉鎖的な私たちの領域の知見の限界も身に染みた出来事だったのです。今は、色々なところでコンピテンシーという用語を目にします。何となく概念的な枠組みを気にせず、便利な言葉として使用されているものもあるのが気になるところです。流行り言葉に飛びつかず、その言葉の成り立ちや定義を理解すること、統計では、1変数、2変数の分析を大事にすること、偏りなく物事を見るように努めること、芳賀先生から学んだことは研究者としての矜持であると思います。芳賀先生も丸山先生も研究を楽しんでおいででした。「ほら、堀本さんこういう見方をすると面白いでしょう?」いつかこの先生方と研究の楽しさについて話ができるような研究者になりたい…私にとっていつも前を向く勇気をくださるそんな先生方との出会いに感謝を感じています。

さいごに

人のやっていない領域に歩を進める時、必ずと言ってよいほど批判的意見を頂戴します。ひとりでは厳しくても共有できる仲間がいれば、乗り越えられるものもあるはずです。「リハタマ」はそういった難題を乗り越えた同志の発展的な集まりの場でもあると思います。「リハタマ」のロゴは、卵と若葉でしょうか。子孫繁栄として孵化する前提のものを「卵」と呼びます。まさに命を繋ぐ存在です。リハタマの思いが次の誰かにつながっていくことを切に願って、筆をおくこととします。

国際医療福祉大学大学院 医療福祉教育・管理分野紹介

医療福祉教育機関の教員を目指す人、既に教員として働いている人、医療福祉施設の管理職を目指す人などを対象とし、教育の原理や方法論、管理学などを教育することによって、次のような人材の育成を目的とした新しい分野です。

・医療福祉教育機関において、教員として授業を立案・実践・改善し、質の高い教育を実施できる人材
・医療福祉施設において、管理者として組織を効果的・効率的に管理できる人材

医療福祉分野におけるこのような人材のニーズの高まりを受け、eラーニングや集中講義を活用し、より実践的能力を身につける1年で修了する課程と教育・管理研究を集中的に学修する2年で修了する課程が準備されています。さらに高度な研究をすすめていきたい方は、博士課程に進んでいただくこともできます。
皆さまの新たなキャリア形成に向け、本大学院がお役に立てますように。

医療福祉教育・管理分野(修士課程)|医療福祉教育・管理分野|医療福祉学研究科|研究科・分野のご案内|国際医療福祉大学大学院 (iuhw.ac.jp)

ABOUT ME
KOB
KOB
リハタマ代表/理学療法士/博士(医療福祉教育・管理)/修士(OMPT))
理学療法士として、回復期・通所リハ・老健・クリニックを経験し、現在もクリニックで臨床を継続しています。主に徒手理学療法を中心に勉強していく中で、体系的に学びたいと思い、修士課程で国際徒手理学療法コース(Orthopedic Manual Therapist:OMPT)を卒業しました。 自分自身も様々な教育を受け、新人指導や科長として施設の運営など教育・管理に携わる機会が増えていきました。そして、教育・管理ってどうするの?臨床ではエビデンス求めるのに、教育・管理に根拠(エビデンス)は必要ないの?って疑問に思い、博士課程で医療福祉・教育管理分野に進学しました。 大学院で学ぶ中で、リハビリテーション分野の教育・管理分野の原著論文の少なさに驚きました。また、自分は大学院で教育・管理を学びましたが、リハビリテーション分野の方々が教育・管理を気軽に学ぶ場がないことに気づきました。 この現状を解決するために「リハタマ」の運営を決意しました。 まだスタートしたばかりの「リハタマ」ですが、メンバーの皆さまとリハビリテーション分野の教育・管理を共に育むことができたら嬉しいです。
記事URLをコピーしました