教育学
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Kolbの経験学習サイクルによる新人教育

KOB
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Kolbの経験学習サイクルはポートフォリオによる新人教育において重要な考え方の一つです。今回はKolbの経験学習サイクルの詳細とその実践例を示したいと思います。

新人教育において「振り返り」を促すにはどうしたらいいのか、すこしイメージできるように記事を書きたいと思います。

参考図書

今回は参考図書から紹介したいと思います。本記事のKolbの経験学習サイクルはこの書籍の「経験学習」を参考に記事を書かせていただきました。

組織社会化、経験学習、職場学習、組織再社会科、越境学習の5本柱で内容がまとまっています。文献的考察から論理的に説明がされており、非常に参考になる一冊です。

Kolbの経験学習サイクルとは

Kolbの経験学習サイクルとは、「具体的経験」➡「内省的観察」➡「抽象的概念化」➡「能動的実験」のサイクルを繰り返すことにより経験学習をすすめていくものです。このKolbの経験学習サイクルを繰り返すことで自己主導型学習方法の獲得を期待することができるといわれています。

具体的経験

定義

学習者が環境(他者・人工物など)に働きかけることで起こる相互作用

具体的経験は始点であり、終点でもある。学習とは、経験から駆動するのでであり、経験の内省を通じて、具体的な対策を立てることである。具体的な対策が次に生かされていくことで、更なる経験の積み重ねが行われ、学習を継続していくことができる。

また「経験」という言葉の背後には、「個体が現有能力を超えなければならない挑戦的な業務経験・職務」という意味が隠されています。そのため、指導者は新人能力を把握し、乗り越えられるであろう経験をさせてあげることが求められます。ポートフォリオにはこれまで経験の記録が蓄積されているため、新人の現状を把握することができ、適切な課題を与えるのに有用であると考えられます。

内省的観察

定義

ある個人がいったん実践・事業・仕事現場を離れ、自ら行為・経験・出来事の意味を、俯瞰的な観点、多様な観点から振り返ること、意味づけること

医学教育学における「振り返り」は「明確な答えのない複雑な難解な問題に対応するため考えること。その思考のプロセスには目的やあるべき結果が伴う」と定義され、省察的実践家を「過去の自分を見直してそこから学び得たり、診療における曖昧で複雑な問題を構造化したりするため、『振り返り』をツールとして用いる医療者」と定義した。

横林賢一: クリニカルジャズ(Clinical Jazz). 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2010, 33-3; p322-325

内省的観察とは、1)未来志向性、2)相互作用性という2つの特徴をもつ認知的機構である。

1)未来志向性

「ある状況における自己の行為を探求することを目的とし、実践の意味を振り返り、因果を分析し、将来の行動に対する結論を抽出する内的行為」と定義づけられる。これは、自分自身の中で内省し、将来の行動に対する結論を導きだすものになります。

2)相互作用性

内省的観察は、「他者との相互作用のなかに埋め込まれ、実現するものだと考えられていることである」という考えが相互作用性である。その中でも、「他者との対話の中に埋め込まれて内省」「他者に開かれた内省」の重要性が指摘されている。つまり指導者のコーチング(対話)による内省支援を行うことが重要である。さらに、指導者だけでなく、組織による内省支援が重要です。eポートフォリオは新人と指導者の対話を強化するといわれており、またネットを利用しているため組織内での共有も容易にできるために有用だと考えられます。

抽象的概念化

定義

経験を一般化、概念化、抽象化し、他の状況でも応用可能な知識、ルール、スキーマ、ルーチンを自ら作りあげること

抽象化とは、対象(経験)から細部や具体性を取り去り、本質的に重要な要素や、着目している側面のみを取り出して、一つの概念として定義すること。また、異なる複数の対象(過去に類似する経験)に共通する性質や要素を見出し、共通点を組み合わせて汎用的な概念を構成することと言われています。eポートフォリオでは、これまで経験の記録が蓄積されているため、過去の経験を俯瞰し内省することで、抽象的概念化が実施しやすくなると考えられます。

能動的実験

定義

経験を通して構築された概念を実践すること

抽象的概念化で得られた概念を次の経験で実践していきます。経験学習では能動的実験は次の具体的体験につながり新たな気づきが得られるため、一般化された知識を活用することに意味を見出しています。

具体的事例

クリニカルクエッション(臨床疑問の解決方法)

今回のKolbの経験学習サイクルでは、臨床疑問の解決方法と次の臨床への応用を目標に指導を行います。当院の新人の一人は臨床疑問に対しての解決の流れができていなかったため、今回クリニカルクエッション(臨床疑問を解決するため、情報を調べ整理し、臨床に応用する方法の指導)を実施しました。

なぜ課題を行うか明確にするために、最初に目標をはっきりさせることが重要だよ。

1サイクル目:臨床疑問の整理

具体的経験

新人が患者を担当し、臨床中に疑問が生じたとします。新人なりに疑問に対して、調べてきてまとめるという経験をしてもらいました。

内省的省察

ここでは、なぜ新人が調べたことが臨床につながらないか内省していきます。
まず、調べてきたものを見ると、気になった情報の箇条書きをしていました。
そのため、一つ一つの情報が分離しており、情報につながりがありませんでした。

抽象的概念化

情報につながりをもたせるために、カテゴリーを作成し、カテゴリーにつながり・流れができるようにまとめるように指導しました。
具体的には「解剖・生理・運動学➡病態➡評価➡治療」に沿って、まとめるように指導しました。

能動的実験

抽象的概念化で導いた、「解剖・生理・運動学➡病態➡評価➡治療」に沿ってまとめることを、次の臨床疑問で実践してもらいました。

コーチングの基本なんだけど、指導者が情報に繋がりがないと思っても、そのまま伝えないようにしてね。まずは「なぜ、情報がわかりにくいのだと思う?」と投げかけたり、もう一歩踏み込んで「読みやすくまとまってる教科書のまとめ方とどこが違うと思う?」など、新人自信が内省できるように声掛けし、次どうしていくかは新人自身が決めるように促していくことが重要だと思うよ。この、内省を促すコーチングが自己主導型学習方法につながるって思ってます。

2サイクル目:臨床への応用方法

情報のまとめ方自体は、上手になってきました。しかし、その情報を臨床で応用することができていません。次のサイクルでは、情報を臨床に応用する方法の獲得を目標に指導しました。

具体的経験

臨床疑問をまとめたものの、臨床に応用できないという経験をしました。

内省的観察

まとめた情報をみてもらった時に、まとめた情報をみて実際臨床で何をするのかイメージすることが困難でした。
さらに、患者を担当した時にでた疑問にも関わらず、患者の状態を解決するための情報というよりは、疑問に思った内容を詳しく調べてまとめる形になっていました。

抽象的概念化

情報をまとめる際に、必ず臨床で調べた内容を使っている姿をイメージしながらまとめるように伝え、イメージできないようなら、まとめ資料には入れないように指導しました。
次に単純に臨床疑問を調べるのではなく、患者の状態を解決するために必要な情報は何かを考えた上で調べる指導しました。具体的には、「調べた内容をどのように患者に応用するのかまでまとめる」ように指導しました。後日、実践した結果を伝えてもらうようにしました。

能動的実験

抽象的概念化で導いた解決方法を実践します。

今回は2サイクルで簡単にまとめたけど、実際はこのサイクルを何回も繰り返し、「臨床疑問の解決方法と次の臨床への応用」という目標を達成できるように、新人の内省を意識して指導したよ。

指導者自身もこのサイクルを一緒に見直すことで、指導の流れ等がわかって、指導者としての成長にも役立つのではないかと感じています。

症例レポート

今回のKolbの経験学習サイクルは、持っている知識をクリニカルリーズニング(臨床推論)に応用する方法の獲得を目標としました。当院の新人で知識はあるけど、患者に応用してクリニカルリーズニング(臨床推論)が苦手な新人に対して、症例レポートの課題を行ってもらいました。

症例レポート

具体的経験

患者を担当し、症例レポートにまとめたのですが、知っている知識の羅列で論理的思考ができていないという経験をしました。

内省的観察

一つ一つの評価の意味を理解しておらず、何のためにやる評価が曖昧になっていました。また、それぞれの評価の関連性を考慮できず、知識のある一部分の評価だけに着目していました。そのため、患者を評価した結果ではなく、知っている知識を患者に当てはめるような考察をしていました。

抽象的概念化

まずは評価項目(可動域・筋力など)ごとに考察をするようにしました。その上で、まとめの考察書いてもらいました。そして、最終的に考察をした後に、その考察に評価から矛盾点がないか、批判的に吟味してもらいました。

能動的実験

評価項目全体から患者の全体像を捉え、批判的に考察を吟味することを継続しました。

症例レポートによる弊害

症例レポートで患者情報一つ一つの意味を考えるトレーニングをしていたら、新人がこのようなことをいうようになりました。

全部が大事な情報にみえてきて、まとめられなくなってきている。他のスタッフに自分の考えが伝わらないよー

具体的経験

患者情報を他のスタッフに簡単に伝える時に情報が伝わらないという経験をしました。

内省的観察

すべての情報を一つ一つ考えるトレーニングをしたため、すべてが大事な情報にみえるようになっている。そのため、情報の優先順位がつけられなくなっている。

抽象的概念化

学会誌の症例発表のアブストラクトを参考にまとめる練習をして、情報の優先順位をつけられるように指導しました。そして、1日1症例口頭で患者情報を1分で伝える練習、つまり「エレベータートーク」を実践するように指導しました。

能動的実験

アブストラクトの作成とエレベータートークの実践

ここでの事例はKOBが経験した指導内容です。根拠等はありませんが、新人指導の際にKolbの経験学習サイクルを取り入れたときに、少しでも参考になれば嬉しいです。

ABOUT ME
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リハタマ代表/理学療法士/博士(医療福祉教育・管理)/修士(OMPT))
理学療法士として、回復期・通所リハ・老健・クリニックを経験し、現在もクリニックで臨床を継続しています。主に徒手理学療法を中心に勉強していく中で、体系的に学びたいと思い、修士課程で国際徒手理学療法コース(Orthopedic Manual Therapist:OMPT)を卒業しました。 自分自身も様々な教育を受け、新人指導や科長として施設の運営など教育・管理に携わる機会が増えていきました。そして、教育・管理ってどうするの?臨床ではエビデンス求めるのに、教育・管理に根拠(エビデンス)は必要ないの?って疑問に思い、博士課程で医療福祉・教育管理分野に進学しました。 大学院で学ぶ中で、リハビリテーション分野の教育・管理分野の原著論文の少なさに驚きました。また、自分は大学院で教育・管理を学びましたが、リハビリテーション分野の方々が教育・管理を気軽に学ぶ場がないことに気づきました。 この現状を解決するために「リハタマ」の運営を決意しました。 まだスタートしたばかりの「リハタマ」ですが、メンバーの皆さまとリハビリテーション分野の教育・管理を共に育むことができたら嬉しいです。
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